仕事から帰ってくると家の前で女性が座っていた。
前に見たことある人だなと思いつつ、ヤギにちょっとだけ挨拶した。
今日はヤレヤレな一日だった。
僕が帰って来て刺身を切って、今日だけはウィスキーを飲んでやろうと用意してちょっと飲み始めた時、同じシェアハウスのタケさんが帰ってきた。
タケさんは帰ってくるなり、「外で女性が焚き火しようとしているけど、中々点かないって困っているんですよ」と言ってすぐ外へ出ていった。
それなら僕も行かなきゃ、とその後を追ったらタケさんがバーナーで火付けしてた。
女性は、ここのオーナーの焚き火会に呼ばれてきたのだ。でもオーナーが帰ってこなくて
一人で苦戦していたらしい。なんとマッチだけで火を起こそうとしていた。
薪もちょっと湿っているし、中々点かない。
僕もバーナーで手伝っている間に、タケさんが焚き付けの細い流木を拾ってきた。
僕がめちゃくちゃになったその焚き火を一旦片付けて、タケさんがその細い流木をうまく置いて
火起こししてくれた。最後にはちゃんと焚き火になった。
僕もそれならと思って自分で切った刺身を持ってきて他の二人におすそ分けしながらウィスキーを飲むことにした。
女性は焚き火会の事情を話し始めた。
どうやら前回はオーナーが焚き火してくれてそれを見ているだけで良かったから、今回は家の冷蔵庫奥から引っ張り出したイノシシ肉を持ってきたそうだ。彼女のお父さんと叔父さんが猟師だそうだ。
前回参加したのは一人だったけど、今回はもっと来るだろうと思っていた。そしたら主催のオーナーは梅取りののバイトが長引いて遅くなるという。
オーナーからラインで指示されて火だけ起こしておいてくれ、遅くなるけど行くねーと無茶振りされて困っていたようだ。
そこに還ってきた僕はヤギの挨拶もそこそこに家に入ったから、忙しいのだろうと声かけなかった。
タケさんがちゃんと気遣って声かけたからやっと事情を話したそうだ。
何も事情を知らず、オーナーに言われてきちゃった女性と、そのシェアハウスの焚き火会に呼ばれたわけでもない住人達。奇妙な焚き火会が始まった。
タケさんはもともとここに住む前に田舎暮らし体験会みたいなので、都市圏からわざわざ焚き火だけしに郊外へ来る人の世話をしていたことがあったそうだ。
焚き火を番するタケさん。イノシシを焼く女性、刺身を切って一人喋る僕。
そんな構図が出来上がってあたりもすっかり暗くなったころ、オーナーが帰ってきた。
僕はオーナーに、正式に離婚が成立したことを報告した。
なんとも奇妙なシェアハウス前の焚き火会。みんなが不完全で、みんながそれぞれの距離感で、だれが欠けても成立しない焚き火会。
こんな空気が作れるオーナーは、実は何もしてないけど結局彼が作った彼らしい空間だなと思った。
